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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)3632号 判決 1985年6月26日

原告

荒海喜代美

被告

関東バス労働組合

右代表者執行委員長

米田昭

右訴訟代理人弁護士

小野幸治

林陽子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五一年一〇月一五日、関東バス株式会社(以下「会社」という)にバス運転士として入社し、その青梅街道営業所(以下「営業所」という)勤務となり、また、同年一二月一五日ころ、被告組合に加入し、その青梅街道支部(以下「支部」という)の組合員となった。

2  原告は、被告組合に対し、昭和五五年五月ころ、支部職場委員会において、賃金体系にバス運転士の中途採用給を取り入れるべきであるという労働条件の改善を求める意見を述べ、被告組合の対応の仕方によっては組合を脱退する旨を述べた。

これに対し、被告組合は、会社に成り代わって「その具現性は困難である」と述べるなどして、原告の要請を減殺する行動以外全く何もしなかった。しかも、被告組合は、同年一二月、会社から経費援助を受けるにつき、それを細分して会社が組合員各自に給与として支給し、かつ、前渡金として控除するという架空操作を行ったので、原告は、組合脱退の意をより強め、昭和五六年一月一三日、被告組合に対し、労働組合脱退通告書を発信した。

これを受けた被告組合は、同月二四日、原告に対し、撤回しなければ解雇になる旨を示してその撤回を強要したので、原告は、脱退通告書の撤回はしないが当面はこれを保留することとし、被告組合もその旨了承した。ところが、被告組合は、原告の脱退通告書があることを口実として、組合統制権を濫用し、原告を失職させることを目的として、同年四月一四日開催の臨時大会において、組合規約上の手続を欠いたまま、原告の脱退を承認するという形式をもって、原告を実質的に除名した。

3  そして、被告組合は、同月一五日ころ、原告が組合を脱退した旨を会社に通知し、同月二〇日、会社をして原告に退職を求めさせた。しかし、原告が退職を承諾しなかったので、被告組合は、同月二四日ころ、労働団結権を不当に用い、会社に対し、実力行使を背景に原告の処遇について六項目の申入れを行い、会社をして、これに従って、同年五月一日から原告のロッカーや食堂の利用、あるいは休暇や時間外勤務の申込みについて差別的取扱いをさせ、同月一一日からは原告に下車勤務を命じる措置をとらせてその仕事を取り上げた。また、被告組合は、同月一六日には、従業員の共済組織である親睦会からも原告を放逐して、原告をいわゆる村八分にした。

4  原告は、仕事を取り上げられ、村八分にされたことによる精神的苦痛を緩和するために、また、病気療養中の妻及び長男を抱え、翌春には長男の高校進学を控えていたところ、下車勤務により大幅な減収となって、経済的にもより多くの収入を得る必要に迫られていたために、やむなく、同年六月二〇日、日生タクシーに乗務員として就職し、稼働した。そして、これが会社の知るところとなり、同年七月一三日、原告は懲戒解雇となり、会社からの退職を余儀なくされた。

5  以上のとおり、被告組合は、原告の労働条件改善の求めに対し専ら会社の楯となるかのごときに終始し、原告が脱退通告書を差し出したため感情に走り、本来は会社に向けるべき矛先を原告個人を排撃するために用い、原告を実質的に除名してその組合員資格を剥奪し、会社を脅して原告に対し種々の差別的取扱いや原告の生活破壊を企図した下車勤務の措置をとらせ、原告を村八分にし、ついには原告を失職させたものであって、これは、労働団結権を濫用した不法行為に当たる。

原告は、被告組合の不法行為によって甚大な精神的苦痛を受け、これを慰謝するには少なくとも三〇〇万円を要する。

6  よって、原告は、被告に対し、損害賠償金三〇〇万円と、これに対する不法行為の翌日である昭和五六年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、第一段落の事実は認める。第二段落については、原告が主張の労働組合脱退通告書を発信したことは認めるが、その余の事実は否認する。第三段落については、被告組合が脱退について原告の慰留に努めたこと、原告の脱退通告書の取扱いを組合大会まで保留することとしたこと、被告組合が主張の臨時大会において原告の脱退を承認したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3のうち、被告組合が会社に対し原告の組合脱退を通告したこと、支部が会社に対し原告の処遇について六項目の申入れを行ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4のうち、原告が日生タクシーに乗務員として就職し、会社が二重就職を理由に原告を懲戒解雇処分にしたことは認めるが、その余の事実は不知ないし否認する。

5  同5の事実は否認する。被告組合は、原告から脱退通告書の送付を受け、原告の慰留に努めたが、原告の脱退の意志は固く、翻意させることができなかったので、組合規約に従い、組合大会において原告の脱退の申入れを承認したのであって、原告を実質的にも除名したものではない。被告組合は、その後、会社に対し、原告の組合脱退を通告し、支部から原告の処遇について六項目の申入れを行うなどしているが、これは、原告が非組合員となったことに伴う必要な措置を行い、またそれを会社に求めたものにすぎない。原告が下車勤務となったのは、会社が独自の判断で下した業務命令によるのであり、被告組合の申入れとは関係がない。また、被告組合には原告を職場から排除しようとする意図はなく、原告の解雇は、原告が二重就職をしたことによる自ら招いた結果であって、被告組合の行為との間に因果関係はない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2ないし4のうち当事者間に争いがない事実に、(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、かねてから、会社の賃金体系において運転士には中途採用給が取り入れられておらず、何歳で入社しても同じ初任給が適用されるということに疑問ないし不満をもっていた。そして、原告は、昭和五五年五月二〇日の被告組合職場委員会に職場委員として出席した際に「運転士にも中途採用給を取り入れるよう組合として会社に申し入れるべきである。組合が努力をしないならば、原告個人で勝ち取ってゆく」旨の意見を表明した。

しかし、被告組合の役員は、会社の賃金体系は都内全バス会社に関連していて、他社にも運転士の中途採用給を取り入れている例がなく、その大幅な変更は困難であると考えており、原告にもその旨説明していたし、原告の意見はその後も支部において多数とならなかったため、この中途採用給問題は、被告組合としての会社に対する要求事項とはならなかった。

そこで、原告は、そのような被告組合の姿勢に飽き足らず、一人ででも会社と交渉しようと考え、昭和五六年一月一三日付けの内容証明郵便によって、被告組合に対し「一身上の都合により被告組合を脱退する」旨の脱退通告書を送付し、この書面は翌一四日に被告組合に到達した。

2  被告組合では、会社との間で「従業員を雇入れる場合は、組合に加入することを条件とする。組合を除名された者は、会社は原則として解雇する。その解雇については組合と協議する」とのユニオン・ショップ協定を締結しており、管理職や臨時雇用者等を除く会社の従業員全員が被告組合に加入していて、組合員の脱退という事態は初めてのことであった。そこで、被告組合は、まず、田中支部長に対し、原告に脱退理由を明確にしてもらうこと、そのために原告と話合いをもつことを指示した。

田中支部長は、同月一六日、原告に対し、脱退理由を尋ねたり、組合本部へ行ってそれを説明するよう求めたりしたが、原告は「組合を辞めたのだから説明には行かない」などと答えるのみであり、翌一七日には、渡辺本部執行委員が原告に脱退の真意を尋ねたが、原告は「賃金に対する考え方が違うのだからやむを得ない。四年も考えた末のことである」などと答えていた。また、被告組合としては、同月二一日に本部において原告との話合いを行うことを予定していたが、原告はこれに出向かなかった。

そこで、被告組合は、同月二四日、本部から米田副執行委員長及び岸井組織部長が支部に出向き、支部からも去渡副支部長及び大野組織部長が出席して、原告との間で話合いを行った。組合側は、原告に対し、ユニオン・ショップ制の意義や団結の意義等について説明するとともに、脱退理由について尋ね、脱退通告の撤回を求めるなどして原告を慰留したが、原告は「生活が苦しく、時間外勤務も組合により制限されている。組合に入っていると中途採用給の要求ができないので、脱退して会社に要求したい。考え方が違うので組合運動の中では解決できない」などと述べ、これ以上被告組合に留まることは自己の信念に忠実でないと考えて、脱退の意志を翻さなかった。ただ、原告は、脱退通告書が被告組合に到達したことによって脱退の効力が生じたものと考えていたが、組合側から組合規約により脱退には組合大会での承認が必要であることを説明されて、大会までは脱退の取扱いが保留され、組合費をそれまでは給与から控除されることを了解した。

被告組合は、内部での討議の結果、再度原告と話合いを行って結論を出すべきであると考え、原告との間で、同年二月二〇日に本部で前田執行委員長と原告とが会談をする約束をしたが、当日になって、原告から「都合で行けない。原告の主張は一月二四日に話したとおりであり、更に話し合う必要はない」旨の電話による断りがあり、この会談を行うことができなかった。

3  被告組合は、その後、私鉄総連や同関東地連の指導も得、これまでの経過を踏まえて、原告の脱退については、組合規約八二条の「組合員が組合を脱退しようとするときは、所定の用紙に所要の事項を記入し、委員長に提出する。委員長は大会の承認を得たる後、脱退申込書を受理し脱退者を組合員名簿より抹消する」との定めに従って大会での承認の手続をとることとしたが、そのころ支部の役員から早急にこの手続を行うべきであるとの意見が出されていたので、これを尊重して、九月の定期大会以前に臨時大会を開催してこの問題を処理することとした(なお、規約にいう「所定の用紙」はいまだ用意されていなかったので、被告組合は、原告からの脱退通告書を規約にいう脱退申込書として取り扱うこととした)。

被告組合は、この臨時大会を同年四月一四日に開催することを決め、同月八日、原告の脱退の件等を審議事項とする議案書を配布して、その旨を組合員に通知した。その一方で、組合側は、大会前日の同月一三日に、去渡副支部長が原告に対し「今日のうちなら臨時大会を中止させられる。脱退届を撤回するならまだ間に合うよ」と話し掛けるなどして最後の慰留に努めたが、原告は、ここまで来たのだから原告の脱退をどのように取り扱うかは組合の自由にすればよいことであると考え、この慰留に応じなかった。

同月一四日、被告組合は臨時大会を開催し、原告の脱退を承認することを決定した。そこで、被告組合は、委員長において原告を組合員名簿から抹消したうえ、翌一五日付けで、原告及び会社に対し、それぞれ右の旨を通知した。

4  会社は、被告組合から右の通知を受けたため、同月二〇日、原告を本社へ呼び、原告から事情聴取を行った。その際、会社は原告に退職を求めたが、原告はこれを断わった。

5  営業所の職場内では、原告が、被告組合を脱退した後においても、被告組合と会社との間の労働協約や労使協定、あるいは職場慣行に基づいて組合員が有してきた権益と同様の権益を受けることについて、組合員から反発が出てきたりしたため、支部は、営業所長に対し、同月二四日に別紙一の申入書によって原告の処遇に関する六項目の善処方を申し入れ、更に同月三〇日には別紙二の申入書によって原告の勤務表につき重ねて申入れを行った。この間、同月二七日には、被告組合としても、会社に対し、組合を脱退した原告の取扱いについて「会社側としてもユニオン・ショップ制度の精神を生かす努力が見受けられない場合は、不本意ながら組合側としても合法的手段で対策をとることを強く申し入れる」旨の記載がある申入書を提出している。

支部から営業所長に対する別紙一及び二の申入れの趣旨及び申入れ後の変化は、次のとおりであった。

(一)  ボックスの移動 営業所には従業員が私物を入れるためのボックスといわれるロッカーがあり、被告組合からの配布物もその中に配られることとなっていたため、従来、組合員のロッカーと臨時雇用者など非組合員のロッカーとに大きく分けて一部屋の中に配置されていた。ところが、原告が組合を脱退したため、支部は、原告のロッカーを、組合員のロッカーが一団となっている場所から、非組合員のロッカーが一団となっている場所へ移すよう申し入れた。その後、原告は、会社の指示に従ってロッカーの移動をした。

(二)  食堂の利用 営業所には社員食堂があって、組合員は食券をいわゆる付け(代金後払い)で購入して食堂を利用し、食券の代金は被告組合がまとめて会社に通知し、会社においてその額を給与から控除して食堂業者に支払うという取扱いになっていた。ところが、原告が非組合員となったのでこの取扱いをすることができなくなり、他方、運転士は勤務中に私有の現金を携帯してはならないことと決められていた。そこで、被告組合は、原告にだけ現金で食堂を利用することを認めないよう申し入れた。原告としては、食堂業者から直接に食券を購入して食堂を利用することとなった。

(三)  時間外勤務 被告組合では、組合員の間で時間外勤務(休日出勤を含む)が公平に行われるようにするため、時間外勤務を希望する組合員が会社の用意した申込みノートの該当日の欄にその氏名を記入し、調整することとしていた。しかし、原告が非組合員となったので、被告組合は、原告については組合員が用いるのとは別の申込みノートを用意するよう申し入れるとともに、時間外勤務の割当てについては組合員優先の配慮をするよう申し入れた。原告は、その後、自ら別のノートを用意して時間外勤務の申込みをするようになった。

(四)  休暇 原告が非組合員となったので、被告組合は、原告が有給休暇をとることによって、組合員である他の運転士の有給休暇の取得に支障が生じることがないよう申し入れた。

(五)  勤務表 運転士の勤務表(勤務割り)は、会社と被告組合との間で、労使協定による一定の基準(経験年数によるランク分け、乗務補助の取扱い、時間外勤務の公平な割当てなど)に従って協議決定し、被告組合の職場委員会の承認を得て確定することとなっていた。ところが、原告が非組合員となったため、その勤務割りを被告組合が協議することはできなくなり、また、被告組合においても、労使協定に基づく一定の基準を原告にも適用することは、組合員である他の運転士の利益との関係で好ましくないと考えたので、原告の勤務割りについては、原告と会社との間で協議して別の勤務表を作成するよう申し入れた。会社は、支部からの二度の申入れを受けて、原告だけの別の勤務表の作成を検討することとしたが、それは困難な作業であったのですぐには作成できず、他方、それをしなければ現場に混乱が生じる事態も予測されたので、原告に対し、原告の勤務表が作成されるまでの当面の措置として、同年五月一一日から下車勤務をするよう命じた。

6  支部には組合員を会員とし、その親睦と共済を目的とする親睦会があったが、原告は、組合脱退に伴ってこの親睦会からも退会することとなり、同月一六日、支部組合事務所において、親睦会から餞別金を受領し、同月二一日付けで親睦会会員各位あての礼状を出した。

7  原告は、会社から下車勤務を命じられたため、運転士としてバスに乗務することができなくなり、出勤しても具体的な仕事を与えられることもなく日々を過ごしていたが、営業所長からの勧めもあって、同月二一日、田中支部長に対し「自分が軽挙妄動的な行動に出たことを深く反省している。自ら招いたものとはいえ大変困窮しているので、被告組合に再加入させていただきたい。将来再加入ができるとの予測があるなら、原告の勤務表を別にせよとの申入項目については寛大な処置をお願いする」旨を記載した再加入伺書を手渡し、被告組合への再加入を申し出た。

ところが、原告は、同月二四日「首を痛めて病院へ行くので明日から休む」旨を会社に告げて、翌二五日から出勤しなくなった(会社での欠勤扱いは同月二八日以降)。そして、原告は、同年六月一日付け及び同年七月二日付けの「変形性頸椎症により安静及び加療を要する」旨の記載がある各診断書を提出して、引き続き会社を欠勤していたが、同年七月九日に至り、職業安定所から会社に対し雇用保険に関する照会があったため、原告が同年六月二〇日付けで日生タクシーに乗務員として就職していることが会社に発覚した。そこで、会社は、この二重就職を理由として、原告を同年六月一九日付けで懲戒解雇した。

三  この認定事実によれば、原告の被告組合からの脱退は、原告自らの意向に基づいたものといわなければならない。被告組合は、原告から脱退通告を受けた後、繰り返し原告を説得しようと試み、脱退通告を撤回して組合に留まるよう慰留したにもかかわらず、ついに原告が脱退の意志を翻すことがなかったため、やむなく、組合規約に従い組合大会での承認を経て脱退を認めたものであって、原告が主張するように、被告組合が統制権を濫用し、原告を失職させることを目的として、原告をその意思に反して除名したものではないし、組合規約上の手続を欠いたものでもない。

被告組合は、その後、会社に対し、原告の組合脱退を通知し、原告の取扱いについてユニオン・ショップ制度の精神を生かす努力を求め、支部において原告の処遇に関し別紙一及び二による申入れをし、また、親睦会において原告の退会措置をとっている。しかし、これらは、原告が脱退により被告組合の組合員でなくなったために、被告組合において、それに伴う必要な又は当然の措置として行ったもの、組合員でなくなった者につき従来の取扱いを維持することは不可能又は不相当であるからその変更を求めたもの、組合員でなくなった者につき労働協約の趣旨にそった取扱いを求めたもの、あるいは、組合員の利益の擁護を目的として行ったものというべきであって、原告が主張するように、労働団結権を濫用し、殊更に原告を差別的に取り扱うことや失職させることを意図したものということはできず、そこには違法とすべき点は見いだせない。

もっとも、会社は、被告組合から原告の脱退の通知を受けた後、原告に対しいったんは退職を求め、また、支部から原告の勤務表を別個に作成するよう再度の申入れを受けた後、原告に対し下車勤務を命じている。しかし、これらは、会社が、使用者として、自らの責任と判断において行ったものといわざるを得ないのであって、被告組合が会社をしてそのようなことを行わせたものということは到底できない。このことは、会社が被告組合との間で前記ユニオン・ショップ協定を締結していること、被告組合からの申入書中に、会社に努力又は誠意が見受けられない場合は「合法的手段で対策をとる」とか「実力行使も辞さない」との記載があること、会社にとって原告だけの別個の勤務表を作成することが困難であったこと等の事情を考慮に入れても、変わりがない。

その後、原告は、二重就職を理由に会社から懲戒解雇されたが、この解雇処分と被告組合がした申入れ等との間には何らの因果関係がないことは、明白である。原告は、被告組合の行為により精神的苦痛を受け、また、下車勤務となったことにより大幅な減収となったため、やむなく二重就職をしたと主張するが、既にみたとおり、被告組合の行為には違法とすべき点はないし、下車勤務の措置が違法又は不当であり、したがって二重就職も責められないのに、違法にも解雇をしたというのであれば、それは会社に対して主張すべき事柄である(現に、弁論の全趣旨によれば、原告は会社に対し解雇無効確認等を求める別訴を提起し、これは昭和五八年七月八日に和解により終了したことが認められる)。

以上のとおり、被告組合には何らの不法行為も認めることができない。

四  よって、原告の本件請求は、その余の点について判断をするまでもなく、理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 片山良廣)

別紙一 申入書

荒海君については、昭和五十六年四月十五日付、本部からの通告書通り組合員名簿より抹消されておりますので、当該支部としては、左記事項を、早急に実施されたく申入致します。

一、ボックスの移動

一、食堂の利用については、現金扱いは、一切認めない。

一、現行の時間外申込ノートの使用は、組合員と別にする。

一、時間外(公出、増務)については、組合員を優先する様御配慮願います。

一、休暇の取扱については、荒海君の為に組合員に支障のない様にして欲しい。

一、勤務表(ダイヤ)については、組合と別に扱って欲しい。

取敢えず右については、昭和五十六年五月一日を以って善処されたし。

昭和五十六年四月二十四日

青梅街道支部

支部長 田中宗太郎

青梅街道営業所

所長 大神弘道殿

別紙二 申入書

荒海君の件について

前回(四月二十四日)に申入しました、勤務表ダイヤについては、組合員と別に扱う様要望しましたが、ダイヤについては労使協定事項であり従って、荒海君に対し、右ダイヤを適用するのは、支部員に対し諸々の権益に支障を来しますので、早急(五月十日迄)に検討し善処される事を期待します。

右、申入れ事項に対し誠意が見受られない場合は、不本意ながら我々としても、支部運営円滑の為、実力行使も辞さない事を申し添ておきます。 以上

昭和五十六年四月三十日

青梅街道支部

支部長 田中宗太郎

青梅街道営業所

所長 大神弘道殿

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